需給調整市場とは、30分より短い時間で生じる電力の需要と供給のずれを埋めるための「調整力(ΔkW)」を、一般送配電事業者が調達する市場です(※1)。2021年4月に開設され、電力需給調整力取引所(EPRX)が運営しています。
2026年度は、この市場にとって大きな転換の年です。3月からすべての商品が前日に取引されるようになり、一部の商品では上限価格が2段階で引き下げられ、家庭用蓄電池などの低圧リソースも参加できるようになりました(※3、※7、※10)。アグリゲーターはもちろん、参入を考える事業者にとっても、調整力の費用やインバランス料金の影響を受ける小売電気事業者にとっても、いま仕組みを押さえ直す意味は大きいと考えられます。
本記事では、2026年10月時点の公表資料をもとに、5つの商品の要件、価格と約定の実態、2026年度の変更点、参入の手続きと期間、小売電気事業者にとっての意味を順に解説します。
30秒でわかる需給調整市場
・何を売買するか:指令に応じて発電や消費を上げ下げできる幅(ΔkW)と、実際に動かした電気の量(kWh)
・誰が買うか:周波数と需給のバランスを保つ責任を持つ一般送配電事業者
・商品:動き出すまでの速さで5つ(一次、二次①、二次②、三次①、三次②)。一次〜三次①はまとめて応札できる
・価格の水準:上限は商品により1kWあたり30分10円・7.21円・上限なし。2025年度の平均約定価格は1.15〜3.93円
・参入の期間:取引会員の申込から契約まで、回線工事の有無により約6〜15か月
電気は、つくる量と使う量が常に一致していないと周波数が乱れ、最悪の場合は大規模な停電につながります。発電事業者や小売電気事業者は、30分ごとに計画を立て、その計画どおりに発電し、販売することが求められています(※2)。
それでも、30分の計画では埋められないずれが必ず残ります。天気の急変で太陽光の出力が予測から外れる、30分の中で需要が細かく上下する、発電所が突然止まる、といったずれです。原因はさまざまですが、共通しているのは「計画を立てた後に、計画より短い時間で起きる」という点です。
このずれを最後に埋めるのが、送配電網を運用する一般送配電事業者の役割です(※3)。そのために、指令を出せばすぐに出力を変えられる発電所や蓄電池、需要を減らせる設備をあらかじめ押さえておく必要があります。これが調整力であり、調整力を押さえておく場が需給調整市場です。
買い手は、各エリアの一般送配電事業者です。売り手は、調整力を出せる設備を持つ発電事業者や、需要家の設備を束ねるアグリゲーター(特定卸供給事業者)などです。市場の運営は、一般送配電事業者が設立したEPRXが担っています(※1)。
一般送配電事業者は、2016年度から各エリアの中で公募によって調整力を調達してきました。2021年度に需給調整市場が開設されてからは、商品ごとに順に市場での調達へ移り、2024年度にはすべての調整力が市場で調達されるようになりました(※2、※3)。エリアを超えて広く調達することで、より安い調整力を使えるようにすることも、市場を開設した狙いのひとつです(※3)。
電気の取引には、性質の違う3つの価値があります。実際に使う電気の量である電力量(kWh)、将来の需要に備えて発電できる能力である供給力(kW)、そして短い時間で需給のずれを埋める調整力(ΔkW)です。それぞれを取引する市場が、卸電力市場、容量市場、需給調整市場です。
表1 卸電力市場・容量市場・需給調整市場の違い
市場 | 取引するもの | 主な買い手 | 何に対して支払われるか | 取引の時期 |
|---|---|---|---|---|
卸電力市場(JEPX) | 電力量(kWh) | 小売電気事業者など | 実際に受け渡す電気の量 | 前日(スポット市場)、当日(時間前市場) |
容量市場(OCCTO) | 供給力(kW) | 電力広域的運営推進機関(費用は小売電気事業者などが容量拠出金として負担) | 将来、発電できる状態を保つこと | 原則として実需給の4年前 |
需給調整市場(EPRX) | 調整力(ΔkW)と、発動した電力量(kWh) | 一般送配電事業者 | 指令に応じて出力を上げ下げできる幅を確保しておくこと、実際に動かした電気の量 | 実需給の前日 |
出典:日本卸電力取引所「取引概要」(※18)、電力広域的運営推進機関「容量市場の概要について」(※19)、EPRX「需給調整市場かいせつ資料」(※2)をもとに作成
容量市場が「4年後に電気をつくれる状態」を押さえる市場だとすれば、需給調整市場は「当日、指令があればすぐ動ける状態」を押さえる市場です。容量市場の仕組みと小売電気事業者の負担は、容量市場の解説記事で詳しく解説しています。
需給のずれが起きてから元に戻すまでには、いくつかの段階があります。需給調整市場の商品は、この段階ごとの役割に合わせて、動き出すまでの速さ(応動時間)で分けられています(※4)。
ずれへの対応は、リレーのように役割が分かれています。最初に動くのが一次調整力です。周波数の乱れを設備自身が感じ取り、指令を待たずに10秒以内で出力を変えます。続いて二次調整力①が、一般送配電事業者から自動で届く細かな信号(0.5秒から数十秒ごと)に従って、5分以内に動きます。その後に二次調整力②と三次調整力①が5分から15分で動き、より大きなずれを引き取ります。最後の三次調整力②は、前日に立てた太陽光や風力の発電予測が外れる分に備える商品で、60分以内に動きます(※4、※10)。
速く動ける商品ほど、設備と通信に求められる要件は厳しくなります。どの商品を狙えるかは、設備の性能と、引ける回線で決まります。
2026年10月時点の要件を、EPRXの「需給調整市場の商品要件と取引スケジュール」第6版(2026年3月13日)から1つの表にまとめました(※4)。
【図1】5つの商品と応動時間・継続時間

表2 需給調整市場の商品要件(2026年10月時点)
項目 | 一次 | 二次① | 二次② | 三次① | 三次② |
|---|---|---|---|---|---|
指令・制御 | オフライン(自端制御) | オンライン(LFC信号) | オンライン(EDC信号) | オンライン(EDC信号) | オンライン |
回線 | 専用線のみ(監視がオフラインの場合は不要) | 専用線のみ | 専用線または簡易指令システム | 専用線または簡易指令システム | 専用線または簡易指令システム |
応動時間 | 10秒以内 | 5分以内 | 5分以内 | 15分以内 | 60分以内 |
継続時間 | 5分以上 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 |
指令間隔 | (自端制御) | 0.5秒〜数十秒 | 専用線:数秒〜数分/簡易指令:5分 | 専用線:数秒〜数分/簡易指令:5分 | 30分 |
監視間隔 | 1〜数秒 | 1〜5秒 | 専用線:1〜5秒/簡易指令:1分 | 専用線:1〜5秒/簡易指令:1分 | 1〜30分 |
最低入札量・刻み幅 | 1MW・1kW | 1MW・1kW | 1MW・1kW | 1MW・1kW | 1MW・1kW |
系統との並列 | 必須 | 必須 | 任意 | 任意 | 任意 |
入札の単位 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 |
出典:EPRX「需給調整市場の商品要件と取引スケジュール」第6版(※4)。上げ・下げの両方の区分があるが、現在は上げ区分のみ調達している
表の用語を補足します。「応動時間」は指令を受けてから求められた出力に達するまでの時間、「継続時間」はその出力を保ち続ける時間です。「指令間隔」は一般送配電事業者から指令が届く間隔、「監視間隔」は設備の出力の値を一般送配電事業者へ送る間隔です。LFCとEDCは、一般送配電事業者が自動で出す出力調整の信号の種類で、LFCは細かく速い調整に、EDCはより大きな調整に使われます。
表で特に見ておきたいのは、回線と並列の2行です。一次と二次①は専用線が必須で、発電機は送配電網につながって運転している状態(これを並列といいます)であることが求められます。二次②から三次②は、インターネット回線を使う簡易指令システムでも参加でき、並列も任意です。つまり、普段は止まっている設備でも、指令を受けてから動き出せば参加できます。DRや自家発電設備で参加しやすいのは、これら3商品です。
最低入札量は、すべての商品で1MWです。1MWに満たない設備でも、複数を束ねて1MW以上にすれば参加できます。
一次調整力は、本来、専用線が必須の商品です。一次調整力は動きが速いため、一般送配電事業者が設備の出力を1秒から数秒ごとにリアルタイムで見守る(オンライン監視)必要があるからです。ただ、専用線は工事に約9か月かかり、費用も重いため、小さな設備には大きな負担になります(※4、※14)。
そこで設けられたのが「オフライン枠」です。リアルタイムで見守ってもらう代わりに、動いた結果を後から数値データで提出する方式で、専用線を引かずに一次調整力に参加できます(※4)。2024年度に始まり、対象はDR、蓄電池、1MW未満の発電機などです(※5)。その代わりに要件は少しゆるく、通常の一次調整力が「10秒以内に動き、5分以上続ける」のに対し、オフライン枠は「30秒以内に動けばよく、続ける時間の決まりはない」とされています(※4、※5)。小さな設備が一次調整力に入るための入口ともいえます。
もうひとつ押さえておきたいのが、複合商品です。一次から三次①までの複数の商品の要件を満たす設備は、それらをまとめて1つの札で応札できます(※3)。複合商品は2024年度から取引されている仕組みで(※9)、2026年度に新しくできた商品ではありません。2026年度に変わったのは、取引の時期が前週から前日になった点です(※3)。
2026年3月14日に実際の調整を行う分から、一次から三次①までの取引も前日に行われるようになり、三次②とあわせてすべての商品が前日の取引になりました(※3)。それまで一次から三次①は、実際の調整を行う日の前の週に、3時間単位でまとめて取引されていました(※3)。
入札は、実際の調整を行う日(実需給日)の前日11時30分から14時まで受け付けられ、15時までに約定(売買の成立)が決まります(※4)。入札は30分ごとの時間枠(コマ)ごとに行い、一般送配電事業者が決めた募集量に達するまで、安い札から順に約定します(※3)。
約定した後は、約束どおりに調整力を出せたかが確認されます。これをアセスメントと呼び、2段階あります(※6)。
アセスメントⅠ:約定した量を出せる状態にあったか。発電計画と市場システムへの登録内容が合っているか、作業や電源の差し替えが反映されているか、などを確認します
アセスメントⅡ:指令に対して、求められたとおりに出力を変えられたか。制御の設定や出力の実績を確認します
要件を満たせなかった場合はペナルティ料金がかかり、同じリソースと同じ商品で1か月に3回以上不適合になると、そのリソースの新しい取引が停止されることがあります(※6)。停止は、実働試験で条件を満たしたことが確認されれば解除されます(※6)。入札できる量を多めに見積もるより、確実に出せる量で入札する方が、結果として収入は安定すると考えられます。
需給調整市場の対価は2層になっています(※2)。1つは、冒頭のたとえでいう待機料にあたるもので、指令があればいつでも動けるように待機していることへの対価です。約定したΔkWに約定価格を掛けて支払われます。もう1つは報酬にあたるもので、実際に指令を受けて出力を変えたときの、その電気の量(kWh)に対する対価です。
後者のkWhの価格は、市場の外の話にもつながっています。実際に使われた調整力のkWh価格は、小売電気事業者が計画と実績のずれを精算するインバランス料金のもとになるからです。この点は、後半の「小売電気事業者にとっての需給調整市場」で取り上げます。
需給調整市場の価格を読むには、まず価格の単位と、「上限価格」と「約定価格」という2つの値段の違いを押さえておく必要があります。
価格の単位は「円/ΔkW・30分」です。これは、1kW分の調整力を、30分のあいだいつでも動ける状態で待機させておくことへの値段(待機料)を表します。たとえば1,000kW(1MW)の蓄電池が、ある30分のコマで3円で約定すると、そのコマの待機料は1,000kW×3円=3,000円になります。実際に放電した電気の代金(kWh)は、これとは別に支払われます。
表3は、商品ごとの上限価格の移り変わりと、2025年度の実際の約定価格、調整力がどれだけ足りなかったか(調達不足率)をまとめたものです。
表3 上限価格と2025年度の取引実績(単位:円/ΔkW・30分)
商品 | 上限価格 2024年4月1日〜 2026年3月13日 | 上限価格 2026年3月14日〜 8月31日 | 上限価格 2026年9月1日〜 | 2025年度 平均約定価格 | 2025年度 調達不足率 |
|---|---|---|---|---|---|
一次調整力 | 19.51 | 15.00 | 10.00 | 3.93 | 60.4% |
二次調整力① | 19.51 | 15.00 | 10.00 | 2.79 | 41.1% |
複合商品 | 19.51 | 15.00 | 10.00 | 2.83 | 22.0% |
二次調整力② | 7.21 | 7.21 | 7.21 | 2.53 | 4.3% |
三次調整力① | 7.21 | 7.21 | 7.21 | 2.47 | 12.9% |
三次調整力② | 上限なし | 上限なし | 上限なし | 1.15 | 2.1% |
出典:EPRX「需給調整市場のΔkW上限価格について」2026年7月30日(※7)、EPRX「2025年度の取引実績について」2026年6月18日(※8)。調達不足率は、募集量に対して約定量が足りなかった割合
上限価格とは、約定する値段の上限のことです。これより高い値段を付けた札は約定しません(※3)。一般送配電事業者が調整力を高く買いすぎないように、あらかじめ決められています。一次、二次①、複合商品の上限は、2024年度から19.51円でしたが、2026年3月14日に15.00円、9月1日に10.00円と、半年でおよそ半分になりました(※7)。二次②と三次①は7.21円のまま、三次②には上限がありません(※7)。
なぜ下げたのでしょうか。一次や二次①は売り手が少なく、募集量に入札が届かない状態が続いていました。売り手が少ないと、高い値段の札でも約定してしまい、調整力を買う費用がふくらみます。この費用は託送料金を通じて最終的に電気料金に及ぶため、競争が十分に働くようになるまでの間、上限を下げて高い値段での約定を抑えることにしたのです(※3、※16)。国の審議会では、競争の状況が改善しない場合はさらに段階的に下げるとされており、10.00円も「当面の間」の値です(※3、※7)。なお、7.21円はいまの二次②と三次①の値であって、すべての商品の将来の上限として決まったものではありません。
約定価格は、実際に売買が成立した値段です。需給調整市場では、売り手がそれぞれ付けた値段のまま、安い札から順に約定します(※3)。そのため約定価格は札ごとに違い、表3の値はその平均です。上限価格はあくまで天井で、実際の値段はそれよりかなり低いところで決まっています。2025年度の年平均は、もっとも高い一次でも3.93円、二次①が2.79円、複合商品が2.83円、三次②は1.15円でした(※8)。いまの上限10.00円と比べると、3分の1ほどの水準です。
前日取引化の後も、この水準は大きく変わっていません。資源エネルギー庁の速報値では、前日取引化後の複合商品の平均は2.86円でした(※3)。三次②は0.98円から2.90円に上がりましたが、複合商品と同じくらいに収まっています(※3)。上限が10.00円まで下がっても、ほとんどの札は3円前後で約定しています。上限の引き下げで影響を受けるのは、一部の高い値段の札に限られるというのが実態です。
参入の判断でもっとも役に立つのが、調達不足率です。募集量に対して、どれだけ約定量が足りなかったかを示します。2025年度は、一次が60.4%、二次①が41.1%、複合商品が22.0%で、二次②(4.3%)や三次②(2.1%)と比べて大きく不足しています(※8)。
前日取引化の後、一次の不足率は46.3%から36.3%に下がり、改善が見られます(※3)。一方で、複合商品は14.6%から17.8%に上がりました。全体の応札量は増えたものの、30分のコマごとに見ると足りない時間帯が残ったためです(※3)。三次②も2.5%から6.7%に上がっています(※3)。
この数字は、裏返して読むことができます。不足している商品ほど、要件が厳しく、入れる設備が限られています。一次と二次①は、専用線と10秒から5分の応動が求められるため、参加できる設備が少なく、そのぶん約定しやすい商品です。反対に、要件のゆるい三次②は応札が多く、価格も低くなりがちです。どの商品を狙うかは、設備の性能だけでなく、回線にどこまで投資するかの判断でもあります。この判断は、「参入の方法と手続き」で扱う工期と合わせて考える必要があります。
2026年度の変更は多岐にわたりますが、参入を検討する側と小売電気事業者に効くものは、次の6点に整理できます。
表4 2026年度の主な変更点(2026年10月時点)
変更内容 | いつから | 参入を検討する側への影響 | 小売電気事業者への影響 |
|---|---|---|---|
前日取引化(一次〜三次①) | 2026年3月14日受け渡し分 | 予測が外れるリスクが小さい前日に入札できる | 調整力の約定が、スポット市場の後に決まる |
30分コマ化(3時間→30分) | 同上 | 時間帯を選んで入札できる | 30分値と同じ単位で調整力が動く |
募集量の削減(あらかじめ確保する量を減らした) | 同上(一次・二次①・複合商品) | 募集される量が減る | 調整力の費用を抑える方向に働く |
上限価格の引き下げ(19.51円→15.00円→10.00円) | 2026年3月14日、9月1日 | 高値の札が約定しにくくなる | 同上 |
低圧リソースの参加 | 2026年3月14日実需給分 | 家庭用蓄電池などを束ねて参加できる | 自社の需要家の設備が市場で使われる場面が増える |
機器個別計測による参加 | 低圧は2026年度、高圧は2027年度以降の予定 | 受電点ではなく機器ごとの計量で参加できる | 受電点の計量値は補正されず、調整金で精算する |
出典:資源エネルギー庁「需給調整市場について」2026年5月13日(※3)、EPRX「需給調整市場のΔkW上限価格について」(※7)、EPRX「需給調整市場に関するよくあるご質問」(※10)、資源エネルギー庁「需給調整市場における機器個別計測について」2025年11月19日(※11)
参入を検討する側にとって大きいのは、前日取引化と30分コマ化です。前の週に3時間単位で約束するより、前日に30分単位で約束する方が、天気や設備の状態を見て確実に出せる量だけを入札できます。一方で、募集量の削減と上限価格の引き下げは、約定の機会と単価の両方を絞る方向に働きます。
低圧リソースは、2026年3月14日の実需給分から、参入要件を満たせば取引できるようになりました(※10)。あわせて、建物の入口にあるメーター(受電点)ではなく、蓄電池などの機器ごとに計量して参加する「機器個別計測」も、低圧から2026年度に取引が始まる予定で、高圧は2027年度以降が想定されています(※11)。機器個別計測で取引するには、その需要場所に次世代スマートメーターが必要です(※10)。家庭の蓄電池や給湯機を束ねる道が開けたことは、「小売電気事業者にとっての需給調整市場」で見るように、小売電気事業者の実務にもかかわります。
需給調整市場に参加する方法は、大きく2つあります。自社の設備をアグリゲーターに預けて、アグリゲーター経由で参加する方法と、自社がEPRXの取引会員になって直接入札する方法です。
自社で取引会員になる場合でも、他社の設備を束ねて調整力として供給するなら、特定卸供給事業の届出が必要です。届出は、事業を始める30日前までに経済産業大臣へ行います(※12)。自社が持つ設備だけで参加するのか、需要家などの設備を束ねるのかで、必要な手続きが変わる点に注意が必要です。アグリゲーターの役割と制度は、電力アグリゲーターの解説記事で解説しています。
取引会員になるための資格は、法人格を持つこと、純資産額が1,000万円以上であること、適格請求書発行事業者であることの3つです(※10)。発電事業者のライセンスは必要ありません(※10)。申込は、参加申込書、取引会員適格誓約書、純資産額調書に、登記事項証明書と直近の貸借対照表を添えてEPRXに郵送します(※13)。
あわせて、電力広域的運営推進機関が管理する事業者コードと系統コードが必要です。需給調整市場用の系統コードは、発電計画の提出に使うものとは別のものになります(※14)。
期間を大きく左右するのが、回線工事です。簡易指令システムは標準工期が新規で約7か月、すでにあるシステムのエリアを広げる工事なら約4か月です(※14)。通信の仕様はOpenADR 2.0bに準拠します(※14)。専用線は標準工期が約9か月で、信頼性を確保するため、原則として2つのルートを用意します(※14)。
取引会員の資格審査に通った後は、その地域の一般送配電事業者に事前審査を申し込みます(※13)。事前審査では、設備が要件どおりに動くかを試験で確認します。準備が整ってから申し込めばよく、実施の期限はありません(※10)。
参入申込から契約の締結までの標準的な期間は、回線工事が要らない場合で約6か月、簡易指令システムの工事が要る場合で約13か月、専用線の工事が要る場合で約15か月です(※14)。
【図2】参入のタイムライン

表5 参入の手続きと期間の目安
手続き | 内容 | 標準期間の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
取引会員の申込 | 参加申込書などを郵送し、資格審査を受ける | 審査結果はメールで通知 | 法人格、純資産額1,000万円以上、適格請求書発行事業者 |
コードの取得 | 事業者コードと需給調整市場用の系統コード | − | 既存のコードがあれば流用 |
回線工事(簡易指令システム) | 二次②・三次①・三次②で利用できる | 新規 約7か月、エリア拡大 約4か月 | OpenADR 2.0b準拠 |
回線工事(専用線) | 一次・二次①では必須 | 約9か月 | 原則として2ルート |
事前審査 | 設備の性能を試験で確認する | 準備が整ってから申込(期限なし) | 地域の一般送配電事業者へ申込 |
全体 | 参入申込から契約締結まで | 工事なし 約6か月、簡易指令 約13か月、専用線 約15か月 | 工事の要否で決まる |
出典:EPRX「事前準備が必要な内容」第10版 2026年3月13日(※14)、EPRX「需給調整市場の参加申込」(※13)、EPRX「需給調整市場に関するよくあるご質問」(※10)
期間を決めるのは、設備よりも回線工事です。設備がそろってから手続きを始めると、そこから1年以上待つことになりかねません。狙う商品を先に決め、回線工事の工期から逆算して申込の時期を決めるのが現実的な進め方です。
系統用蓄電池は、出力を数秒で切り替えられるため、一次や二次①のように速さが求められる商品に向いています。ただし、この2商品は専用線が必須なので、工期と費用を見込んでおく必要があります。系統用蓄電池の事業の全体像は、系統用蓄電池の解説記事で解説しています。
自家発電設備は、普段から系統につないで動かしているかどうかで、入れる商品が分かれます。一次と二次①は並列が必須のため、止まっている設備は対象になりません。二次②から三次②は並列が任意なので、起動して応動できれば参加できます。
DR(需要の抑制)は、応動に時間の余裕がある三次②や三次①から始めるのが一般的です。オフライン枠を使えば、一次にも参加の道があります。DRの仕組みと種類は、デマンドレスポンスの解説記事で解説しています。
小売電気事業者は、30分ごとに「これだけの電気を売る」という計画を立てています。実際の需要が計画とずれると、足りなかった分や余った分は一般送配電事業者が調整力で埋め、後から精算します。この精算に使う単価がインバランス料金です。2022年度からのインバランス料金は、調整力のkWh単価や需給ひっ迫の度合いをもとに決まる仕組みです(※15)。通常時は、そのコマで動いた調整力の限界的なkWh価格(最後に動いた、もっとも高い調整力の価格)が使われます(※15)。
つまり、需給調整市場で調達された調整力のkWh価格が、小売電気事業者の計画と実績のずれを精算する単価に表れます。需要の予測が外れたときの負担は、調整力の価格の動きに左右されると考えられます。
一般送配電事業者が一次から三次①までの調整力を調達する費用は、託送料金でまかなわれます(※16)。託送料金は小売電気事業者が一般送配電事業者に支払い、需要家の電気料金に含まれています。調整力の調達費用が増えれば、時間をおいて託送料金、そして電気料金に及ぶことになります。
2026年度の募集量の削減と上限価格の引き下げは、この費用が高くなりすぎないようにする狙いも持っています(※3)。電気料金のどこに託送料金が含まれているかは、電気料金の内訳の解説記事で解説しています。
他社のアグリゲーターが、自社の需要家の蓄電池や自家発電設備、DRを調整力として使う場合を考えます。蓄電池が放電したり、自家発電設備が発電したりすると、その需要家が送配電網から買う電気は、その分だけ減ります。電気を売っているのは自社なので、自社の販売量が減ることになります。
具体例で見てみます。ある家庭が、ある30分に10kWhの電気を使い、そのうち3kWhを、市場の指令で放電した家の蓄電池でまかなったとします。家の入口にあるスマートメーター(受電点のメーター)が測る、送配電網から買った電気は7kWhです。小売電気事業者は、このメーターの値どおり7kWh分を請求します。蓄電池が動かなかった場合の10kWhに直す(補正する)ことはしません(※17)。
売れなかった3kWh分は、アグリゲーターから小売電気事業者へ支払われる「調整金」で埋め合わせます(※17)。DRで需要を減らした場合は、従来からあるネガワット調整金の仕組みが使われます(※17)。また、蓄電池を機器ごとに計量して参加する場合でも、需要場所ごとの契約は1つのままで、蓄電池のために別の契約を結ぶわけではありません(※17)。
つまり小売電気事業者には、請求は今までどおりメーターの値で行い、それとは別にアグリゲーターから調整金を受け取る、という2本立ての精算が生じます。どの需要家がどのアグリゲーターと契約しているかを把握し、受け取る調整金が正しいかを照合する実務が必要になると考えられます。
2026年度から低圧リソースが参加できるようになり、小売電気事業者が自社の需要家の家庭用蓄電池や給湯機などを束ねて、需給調整市場に出す道が広がりました(※10、※11)。需要家と日々の接点を持つ小売電気事業者は、設備を集めやすい立場にあります。
この場合、需要家と参加の契約を結び、対象の機器を登録し、参加した結果に応じて割引や報酬で需要家に還元する、という実務が新たに生じます。還元は、毎月の電気料金と一緒に計算し、請求書に載せるのが自然な形です。分散型エネルギーリソースを束ねる仕組みの全体像は、DERの解説記事で解説しています。
【図3】電力CISとアグリゲーションシステムの関係

需給調整市場に参加するには、アグリゲーションシステムが必要です。アグリゲーターが、束ねた蓄電池やDRなどの設備を遠隔で監視・制御し、需給調整市場に入札して、アセスメントへの対応や市場との精算を行うためのシステムです(VPPシステムなどと呼ばれることもあります)。
電力CIS(顧客情報管理システム)は、これとは別の仕組みです。小売電気事業者が需要家と結ぶ契約、スマートメーターの30分値、料金の計算、請求を受け持ちます。2つは役割が分かれていますが、無関係ではありません。小売電気事業者が需要家の設備を束ねて参加するとき、あるいは自社の需要家の設備が他社に使われるとき、両者の間では次の情報がやり取りされます。
①電力CISからアグリゲーションシステムへ:参加する需要家と、その契約条件、需要場所の情報
②アグリゲーションシステムから電力CISへ:需要家ごとの参加実績と、還元の計算のもとになる値
③両方で使うもの:スマートメーターの30分値
④小売電気事業者の収支:アグリゲーターとの調整金
この整理から、電力CISの役割は「需給調整市場への参加の結果を、需要家との契約と電気料金の請求に正しく反映すること」だといえます。入札や指令、アセスメント、市場との精算は、電力CISの対象ではありません。それぞれのシステムが受け持つ範囲をはっきりさせておくことが、参加の結果を需要家への請求まで正しくつなぐ前提になります。
需給調整市場への参加を、需要家との契約と電気料金の請求に反映する仕組みは、当社が提供するUnisrv 電力CISの仕事です。詳細は、無料相談にてお尋ねください。
需給調整市場で売買されているのは、電気そのものではなく、指令に応じて出力を上げ下げできる幅(ΔkW)です。商品は動き出すまでの速さで5つに分かれ、速い商品ほど要件が厳しく、同時に調達が不足しています。
一次、二次①、複合商品の上限価格は10.00円まで下がりましたが、実際の約定価格は3円前後で推移しており、上限が効くのは一部の高値の札に限られます。参入するなら、価格の上限よりも、どの商品が不足していて、自社の設備と回線でどこまで狙えるかを見るのが近道です。そして、参入までの期間を決めるのは、設備よりも手続きと回線工事です。
小売電気事業者にとっては、インバランス料金、託送料金、需要家との精算という3つの面で関わる市場です。2026年度の低圧リソースの参加で、需要家の設備を束ねる立場にもなりえます。そのとき必要になるのは、市場に参加した結果を、需要家との契約と毎月の請求に正しくつなぐことです。
※1 電力需給調整力取引所(EPRX)「需給調整市場とは」:https://www.eprx.or.jp/outline/outline.html
※2 電力需給調整力取引所「需給調整市場かいせつ資料」第2版:https://www.eprx.or.jp/outline/docs/kaisetsu_ver.2_20260401.pdf
※3 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料8、2026年5月13日):https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/stable_power_supply_wg/pdf/001_08_00.pdf
※4 電力需給調整力取引所「需給調整市場の商品要件と取引スケジュール」第6版(2026年3月13日):https://www.eprx.or.jp/outline/docs/shouhin_ver.6_20260313.pdf
※5 電力広域的運営推進機関「一次オフライン枠(スカウティング枠)に係る検討について」(第45回需給調整市場検討小委員会 資料3、2024年2月7日):https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/chouseiryoku/jukyuchousei/2023/files/jukyu_shijyo_45_03.pdf
※6 電力需給調整力取引所「アセスメント不適合時の処分等」:https://www.eprx.or.jp/outline/assessment.html
※7 電力需給調整力取引所「需給調整市場のΔkW上限価格について」(2026年7月30日):https://www.eprx.or.jp/information/docs/14b85fbe8942da7d3bdddda80243e7e170f64d9e.pdf
※8 電力需給調整力取引所「2025年度の取引実績について」(2026年6月18日):https://www.eprx.or.jp/information/summary_2025.pdf
※9 電力需給調整力取引所「2024年度の取引実績について」(2025年6月19日):https://www.eprx.or.jp/information/docs/summary_2024.pdf
※10 電力需給調整力取引所「需給調整市場に関するよくあるご質問」:https://www.eprx.or.jp/contact/jukyuchoseishijo/faq.html
※11 資源エネルギー庁「需給調整市場における機器個別計測について」(次世代の分散型電力システムに関する検討会 資料6、2025年11月19日)p.18:https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/014_06_00.pdf
※12 資源エネルギー庁「特定卸供給事業にかかる届出義務について」:https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/009/009.html
※13 電力需給調整力取引所「需給調整市場の参加申込」:https://www.eprx.or.jp/outline/application.html
※14 電力需給調整力取引所「事前準備が必要な内容」第10版(2026年3月13日):https://www.eprx.or.jp/outline/docs/jizenjunbi.pdf
※15 電力・ガス取引監視等委員会「2022年度からの新たなインバランス料金制度の今後の検証等について」(第65回制度設計専門会合 資料5、2021年10月1日):https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/065_05_01.pdf
※16 電力・ガス取引監視等委員会「2023年度からの新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度)における調整力費用の算定方法等について」(第71回制度設計専門会合 資料5、2022年3月24日)p.2:https://www.egc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/071_05_00.pdf
※17 資源エネルギー庁「次世代の分散型電力システムに関する検討会 中間とりまとめ」(2023年3月):https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/20230314_1.pdf
※18 日本卸電力取引所「取引概要」:https://www.jepx.jp/electricpower/outline/
※19 電力広域的運営推進機関「容量市場の概要について」(2019年10月):https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/youryou_gaiyousetumei.pdf
2026年10月23日
この記事の著者

甲斐 博一
ユニファイド・サービス株式会社 CMO
グローバルIT企業における23年間のマーケティング経験に経営企画のスキルも加えB2B/B2Cともに経営とマーケティングを結び付けていくことをモットーとする。また、数多くのデジタルマーケティングおよびECの立ち上げや衰退ビジネスの立て直しも経験し、Webサイトを事業に貢献させてきた経歴を持つ。現在はユニファイド・サービスにて、B2B領域のビジネスにフォーカスし、CMOとしてマーケティングを推進すると同時に、新規事業計画と成長を支援する活動を並行して実践中。経営とマーケティング、事業企画、そしてリーダーシップを次世代に伝えていくための活動もライフワークとして行っている。