対談 東京電力EP × ユニファイド・サービス
ユニファイド・サービスはコア事業として、電力業界向けの業務システムをクラウドで支援するサービスを提供する。その中心として、小売電気事業者向けにパブリッククラウドベースの顧客情報・料金管理システム(CIS)を展開。2024年には大手電力として初めて東京電力エナジーパートナー(EP)が高圧向けCISを導入した。ユニファイド・サービスの鈴木久充執行役員・営業本部長と東電EPの山﨑正道常務執行役員・最高情報責任者(CIO)に、その狙いと効果、今後の展望について語り合ってもらった。
文・写真=電気新聞 ※一部実際の紙面と表記を変えている箇所がございます。
――「高圧CISサービス」とはどのようなシステムですか。また今回、両社が新たに開発・導入した経緯は。
山崎
CISは小売り電気事業者の最も重要な基幹システムの一つで、料金プランの設計や、お客様の料金計算などの基礎となります。当社は競争環境を踏まえお客様サービスとオペレーションの効率化を向上する観点でCISの再構築を進めています。特に企業を対象とする特高・高圧領域は競争が激しく個別要望が多いため、新規の料金メニューは迅速・柔軟に対応する必要性が高まっていました。
世界のエネルギーを取り巻く環境は燃料価格のボラリティー(変動幅)が拡大する状況にあります。また、電力卸売市場価格と連動させ、お客様に最適な選択肢を提供する要望が強まっています。それを踏まえ昨年9月に発表した特高・高圧標準3メニューは新CISで設計・運用しています。こうした基幹業務を短期間にトラブルなくCISを構築でき、タイムリーに新メニューを投入できたことに感謝しております。
鈴木
当社は2016年の電力小売全面自由化を受け、新電力会社へのCIS提供を開始しました。当初大手への導入は想定せずサービス開始しましたが、クラウドベースで拡張性のあるサービスであったことが、この度の東電EP様でのご採用では、迅速な実装につながりました。また、2016年当初より継続して、CISを提供してまいりましたので、その間の苦労も含めて、当社に電力業務に関連する知見の蓄積があることも強みになっています。
CISはミッションクリティカル(業務遂行に必要不可欠)なシステムでもあり、これまではオンプレミス(顧客がサーバーなどのハードを保有・運用する方式)で厳密に要件定義するウオーターフォール型の開発とすることが多く、特にテストに大きな時間と手間が掛かります。それに対し当社は、蓄積してきた業務ノウハウをもとに、計画、実装、テストを細かく反復する「アジャイル型」開発に特化していることで、開発期間の大幅な短縮を図ることが可能です。また、当プロジェクトにおいては、東電EP様側にクラウド開発の第一人者をプロジェクトマネージャーに配置して頂き、両社のチームが一体となり開発を進めたことで約半年という短納期を実現できました。
また、政府は各社のクラウドを「政府情報システムのためのセキュリティー評価制度(ISMAP)」で評価しています。これを参考に、当社のCIS基盤は、十分信頼できるものとして採用頂いたと考えています。今回、電力小売最大手である東電EP様の業務の最も重要で、且つクリティカルな業務においてご採用頂けたことで、業界が一層クラウドを活用する契機になると期待しています。納期が短いということはそれだけ初期コストも抑えられるということであり、また、ご導入後も新サービスを迅速に開始できるという点でも小売事業者に貢献できます。
山崎 実はプロジェクト進行中に要件を追加しましたが、それを含めても納期内に収まりました。これはクラウドをベースとした「アジャイル型」開発の知見を有する効果だと思います。今後はクラウドとオンプレミスとそれぞれの長所を見極めて適材適所、ハイブリッドで徐々にステップアップすることになりますが、今後のシステム投資の関する前例になったと思います。
――導入後の効果はどうですか。
山崎 電力卸売市場などの外部情報を料金計算に活用する機能も備え、新メニューの開発工数の削減と投入までの時間短縮に寄与したと思います。クラウド環境であるため、業務に即した運用スケジュール、業務量の増加、アクセス制限などの設定が容易です。使い勝手などは現場の声も踏まえ臨機応変に改善していく方針です。
鈴木 従来のシステムベンダーはシステムを組んで納入することを「目的」としがちでしたが、システムは納入企業様に業容を拡大して頂くための「手段」です。当社のCISは継続する「サービス」として提供することが特長であり、東電EP様のシステムご利用が増えるほどに我々の収益も拡大することになります。同じ目的に向かってビジネスを伸ばすビジネスパートナーとして今後もシステムをより良いものにしていきたいと考えています。
――今後のCISの展開は。
山崎 電気料金メニューについてお客さまの選択肢を増やせる新しい環境は整いつつあります。電気をきっかけに関連の様々な商品ラインアップも考えており、価値のあるメニューをタイムリーに追加していきます。メニュー追加に加え、業務の手作業を極力なくすことで効率化できるよう検討の土台に上げていきたいと思います。
鈴木 高圧の需要家は1件当たりの取引金額の規模が大きく、万一トラブルがあればその影響も甚大となるため我々の責任も重大だと考えています。今後も確実に、ミスのないようしっかり取り組んでいきます。業容拡大に貢献できる道具としてCISを活用して頂き、業界全体がより良くなることを願っています。多様なユーザーの声を受けて改善に取り組み、その成果をもとにまた東電EP様にお返しできればと考えています。
――電力小売事業は変革期が続きます。
山崎 ウクライナ情勢などを受け資源価格が高騰し、新電力の撤退・合従連衡にもつながりました。現在は比較的安定していますが、まだ世界情勢に不安定要素があり、予断は許されません。当社は安心・安全にエネルギーを供給する使命に加え、経済・環境面も配慮した暮らしを送って頂ける付随サービスの提案が責務です。その実現に向けIT戦略や機能・データ配置方針を定めた「ITグランドデザイン」を策定し、それに基づく施策を実行しています。ユニファイド・サービスのCISも、お客さまに柔軟かつ迅速にサービス提供可能なソリューションとして大いに期待しています。
鈴木 当社の中心事業は電力業界向けバーティカル(業界特化型の)クラウドの提供ですが、この業界は全面自由化を契機に大きく変化しています。電気が選べる時代となったことで、より迅速に変化へと対応し、経済的にも合理的な供給をすることが使命になっています。東電EP様に対してはCISがコアな業務システムになりますが、当社のクラウドシステムで培ったノウハウにて、今後、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)、系統向け蓄電池といった分散型エネルギーリソースの活用など供給の仕組みの変革、カーボンニュートラル等も支援できれば幸いです。
日本IBM理事や、ソフトバンク・コマース社長、米クラウドコンピューティングサービス大手・セールスフォース・ドットコムの上級副社長などを歴任した宇陀栄次社長が、2004年に設立。様々なクラウドサービスと、顧客システムを統合(ユニファイド)することで、顧客や社会が抱える課題の解決を目指す思いが社名に込められる。
2016年の電力全面自由化を契機に、電力小売事業者向けCISサービス事業を開始、その後米セールスフォース、また、2018年には東電EP、JPインベストメント他からの増資を受け、電力領域向け事業の業績を伸ばしている。
公共向け領域では、資源エネルギー庁から受託したFIT(固定価格買取制度)の事業認定システムにより国内約400万件の再生可能エネルギー発電事業者の情報管理を担うなどしている。
このほかクラウド領域では米Yextと提携し、デジタルマーケティング事業を展開。情報を属性に分けて相互関係を整理し、構造化した状態でデータベースに格納するエンカレッジ・ジャパンというサービスを構築。企業ウェブサイトのAI(人工知能)対応などに活用されている。