Salesforceが提供するAI機能は、3つの層で捉えると整理しやすくなります。最上位が、目標を与えると自律的に業務を実行する「Agentforce」。中間が、予測・生成の機能とそれを安全に動かす基盤を担う「Einstein」。最下層が、AIが参照する企業固有のデータを統合する「Data 360(旧Data Cloud)」と各Cloud(Sales、Service、Marketing)に蓄積されたデータです。
Einsteinはこの中間層にあたります。2016年の発表以来、Salesforceの各製品に組み込まれてきた予測AI機能と、2023年以降に加わった生成AIの基盤機能を包括する呼称であり、単一の製品名ではありません。上の層であるAgentforceはEinsteinの基盤(Trust LayerやData 360)の上で動き、下の層のデータが整っていなければ中間層の予測も上位層のエージェントも精度が出ません。本記事は、この中間層を主題として解説します。
Salesforceを「CRMアプリケーション」ではなく「業務アプリを構築するためのPaaS」として捉えると、Einsteinはそのプラットフォームに標準搭載されたAIレイヤーだと理解できます。この見方は、Salesforceの三層アーキテクチャを解説したコラムで詳しく扱っています。
Einstein周辺の名称は2024年から2025年にかけて大きく変わりました。機能そのものが変わったのではなく、ブランドの整理で名前が変わったケースが大半です。旧名称で検索して迷わないよう、対応関係を以下の表にまとめます。
旧名称 | 現行名称 | 変更時期 | 機能の変更 |
|---|---|---|---|
Einstein Copilot | Agentforce Assistant(Agentforce製品群の一部) | 2025年1月 | なし。会話型アシスタント機能は同一 |
Data Cloud | Data 360 | 2025年10月14日 | なし。ブランド変更 |
Einstein 1 Platform | Agentforce 360 Platform(Agentforce Platform) | 2025年10月(Dreamforce) | プラットフォーム名の統合。Einstein機能は継続 |
CRM Analytics | Tableau Einstein | 2024年 | なし。分析製品の名称統合 |
Einstein Bots | Agentforce(サービス向けエージェント)へ発展 | 2024年10月以降 | ルール型ボットから自律エージェントへ進化 |
Einstein 1 Edition | Agentforce 1 Edition | 2025年6月 | なし。最上位エディションの名称変更 |
Sales Cloud/Service Cloud | Agentforce Sales/Agentforce Service | 2025年以降(公式価格ページ等) | なし。製品名にAgentforceを冠する表記へ |
なお、Salesforceの公式価格ページなどでは、Sales CloudとService Cloudも「Agentforce Sales」「Agentforce Service」と表記されるようになっています。製品の中身は従来のSales Cloud、Service Cloudと同じで、Agentforceを標準搭載する製品群であることを示す表記の変更です。本記事では、読者の検索語や既存の解説記事との整合を優先して、Sales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloudの呼称で統一します。
押さえるべき点は一つです。「Einstein」という名前は、予測AI機能群とEinstein Trust Layerの名称として現在も使われており、対話型・自律型のエージェント文脈では「Agentforce」が前面に出る、という役割分担になっています。Einsteinがなくなったわけではありません。
ChatGPTやClaudeに代表される汎用生成AIは、インターネット上の公開情報を学習した「誰でも使える知性」です。これに対しEinsteinは、自社のCRMに蓄積された顧客データ、商談履歴、問い合わせ履歴を根拠に動く「自社専用の知性」です。両者は競合ではなく用途が異なります。違いは次の3点に集約されます。
観点 | 汎用生成AI(ChatGPTなど) | Salesforce Einstein |
|---|---|---|
学習・参照するデータ | 公開情報。自社の顧客や商談は知らない | 自社のCRMデータ。顧客ごとの文脈を踏まえて予測・生成する |
権限とセキュリティ | 入力内容の取り扱いは利用規約次第、権限管理は別途必要 | Salesforceの権限モデルに従い、Trust Layerでマスキングとデータ非保持を担保 |
業務への組み込み | 別画面で使い、結果は別作業で転記 | 商談画面やケース画面の中で提案・生成が完結し、結果がそのままレコードに残る |
実務上の差は「業務への組み込み」に最もはっきり表れます。営業担当者がSalesforceの商談画面を開くと、Einsteinがその商談の成約確度、次に取るべき行動、顧客向けメールの下書きを提示します。汎用AIにできることを、汎用AIでは扱えない自社データを使って、日常業務の画面の中で行うのがEinsteinの価値です。
Einsteinの機能は多岐にわたりますが、「予測AI」「生成AIの基盤」「Einstein Trust Layer」の3つに分けると、何がどこで働いているかが見通せます。
層 | 機能名 | できること | 主に使う部門 |
|---|---|---|---|
予測AI | Einstein Lead Scoring/Opportunity Scoring | リードと商談に成約確度のスコアを付け、優先順位を示す | 営業 |
予測AI | Einstein Forecasting | 過去の商談推移から四半期の売上着地を予測する | 営業管理 |
予測AI | Einstein Discovery(Tableau Einstein) | 統計モデルで「なぜそうなるか」「どうすれば改善するか」を提示する | 営業企画・分析 |
予測AI | Einstein Case Classification/Routing | 問い合わせを自動分類し、適切な担当者やキューに振り分ける | サービス |
予測AI | Einstein Send Time Optimization/Engagement Scoring | 開封されやすい送信時刻を予測し、顧客ごとの反応度をスコア化する | マーケティング |
生成AI基盤 | Prompt Builder | CRMデータを差し込むプロンプトのテンプレートをノーコードで作成・配布する | 管理者・各部門 |
生成AI基盤 | Model Builder | 外部LLMや自社モデルを接続・選択し、予測モデルを構築する | 管理者・データ担当 |
生成AI基盤 | Einstein Generative AI(メール生成、要約、返信推奨) | 顧客向けメールの下書き、通話やケースの要約、返信文の推奨を生成する | 営業・マーケティング・サービス |
Trust Layer | Einstein Trust Layer | PIIマスキング、LLMへのデータ非保持、有害性検知、監査証跡 | 全部門(情シス・法務が評価) |
生成AIの導入で情報システム部門や法務が最も懸念するのは、「顧客情報がLLMに送られて学習に使われるのではないか」という点です。Einstein Trust Layerは、この懸念に応えるためにすべてのAI処理の通り道として設計された安全装置で、次の3つを担保します。
・学習に使われない:Salesforceが契約するLLMプロバイダーはゼロデータリテンション(入力データを保持しない)で運用され、送信したプロンプトや応答がモデルの学習に使われることはありません
・マスキングされる:氏名やメールアドレスなどの個人情報(PII)は、LLMに送る前に自動で伏せ字化され、応答が戻った後に復元されます
・証跡が残る:プロンプト、応答、有害性スコアが監査ログとして記録され、監査証跡とフィードバックデータの保存先としてData 360が使われます
さらに、Salesforceの権限モデルがそのまま適用されるため、ユーザーが閲覧権限を持たないレコードがAIの回答に混ざることもありません。Trust LayerはEinsteinの生成機能だけでなく、上位層のAgentforceにも共通して適用される基盤です。AI導入の稟議で「セキュリティはどう担保されるのか」と問われたとき、この3点を説明できれば議論は前に進むものと思います。
マーケティング部門では、Marketing CloudのEinstein Send Time Optimizationが顧客ごとに開封されやすい送信時刻を予測し、Einstein Engagement Scoringが反応度をスコア化してセグメント設計に活かします。生成AIは件名や本文のバリエーション作成を支援します。Marketing Cloudの機能全体については、Marketing Cloudの解説記事を参照してください。
効く前提は、配信履歴と反応データがSalesforce上で一元管理されていることです。メール配信ツールが別系統にあると、Einsteinは学習材料を得られません。分析結果の見せ方はレポート・ダッシュボードの解説記事で扱っています。
2024年10月に登場したAgentforceは、Einsteinの「代替」ではなく「上に積み重なる層」です。Einsteinが「この商談は成約確度が高い」「このケースは技術問い合わせだ」と予測・判断するのに対し、Agentforceはその判断を受けて「顧客に回答を返す」「フォローの予定を組む」「見積案を作成する」といった一連のアクションを、人間の指示なしに実行します。
2025年1月、それまでのEinstein Copilot(会話型アシスタント)はAgentforceに改称され、現在はAgentforce Assistantとして提供されています。この改称で機能が変わったわけではなく、「対話・実行はAgentforce、予測・基盤はEinstein」という整理が明確になりました。両者の違いを以下の表にまとめます。
観点 | Einstein | Agentforce |
|---|---|---|
役割 | 予測・分析、生成AIの基盤、安全装置 | 目標に向けた業務の自律実行 |
動作モード | ユーザーの画面に提案・スコア・下書きを提示する | 推論エンジンが状況把握→データ参照→計画→実行を自律的に繰り返す |
人間の関与 | 人間が判断し、実行する | 人間はガードレールと目標を設定し、例外時に介入する |
代表ユースケース | 商談スコアリング、売上予測、メール下書き、ケース分類 | 24時間の一次対応エージェント、見込み客のナーチャリング、社内問い合わせの自動処理 |
共通基盤 | Einstein Trust Layer、Data 360、Salesforceの権限モデル | 同左(Einsteinの基盤の上で動く) |
必要な前提 | 予測対象のデータが継続的に入力されていること | 参照するデータとナレッジが整備され、業務ルールが明文化されていること |
EinsteinとAgentforceは、Einstein Trust Layer、Data 360、Salesforceの権限モデルという同じ基盤を共有しています。Agentforceのエージェントが顧客に回答する際も、その回答はTrust Layerを通過し、Data 360に統合された顧客データでグラウンディングされます。したがって「Agentforceを導入するからEinsteinは不要」という関係にはなりません。Agentforceの機能各論やバージョンの推移は、Agentforceの解説記事で扱います。Data 360の詳細はData 360の解説記事を参照してください。
生成AIとエージェント機能には、ユーザー数ではなく利用量(会話数やクレジット)に基づく課金が組み合わされます。利用条件は「どの機能か」「どのエディションか」「誰が使うか」「どれだけ使うか」の4軸で決まるため、金額は自社の構成を前提に見積もる必要があります。最新の条件はSalesforce公式の価格ページで確認してください。エディションごとの違いと選び方は、エディション比較の解説記事で整理しています。
Einsteinの予測も、Agentforceの自律実行も、学習・参照するのは自社のSalesforceに入っているデータです。ここに例外はありません。Garbage In, Garbage Out(ごみを入れればごみが出る)という言葉のとおり、データが欠けていれば予測は外れ、ナレッジが古ければ生成文は的外れになります。AIを活かすためのデータには、次の4つの条件があります。
・正確性:商談フェーズ、金額、失注理由、顧客属性が事実と一致している
・網羅性:一部の担当者や一部の案件だけでなく、対象業務のデータが漏れなく入っている
・鮮度:活動や状況の変化が、日単位で反映されている
・一貫性:業種や製品の分類、表記ルールが担当者間で揃っている
Data 360は、これらのデータを社内外のシステムから統合し、AIが参照できる形に整える役割を担います。しかし、統合の前提となる入力の質は、ツールではなく日々の運用が決めます。
データの質を決めるのは、現場が入力し続けているかどうか、つまり定着です。定着している組織では、入力が蓄積を生み、蓄積がAIの精度を上げ、精度が上がるとスコアや下書きが現場の役に立ち、役に立つから入力が続く、という好循環が回ります。逆に定着していない組織では、入力が滞り、データが古く欠け、AIの予測が外れ、外れるから信用されず使われなくなり、実務がExcelに戻る、という悪循環に入ります。高機能なAIを導入しても、この輪に入ってしまうと成果は出ません。
Salesforceが「導入したのに定着しない」問題の構造と対策は、Salesforceの全体像を解説した記事で詳しく扱っています。Einsteinの導入を検討する段階で、まず自社の定着状況を確かめることを勧めます。
A. 機能によって異なります。一部の予測機能は上位エディションに標準で含まれ、生成AIやAgentforceはアドオンとして追加する構成が一般的です。最新の条件はSalesforce公式の価格ページで確認できます。エディションの違いはエディション比較の解説記事で整理しています。
ここまで見てきたとおり、Einsteinの価値を引き出す鍵は、AI機能そのものではなく、その下にあるデータの質と現場の定着です。ユニファイド・サービスの「AI Powered CRM」は、この構造に沿って、データ整備からAI活用までを一気通貫で支援します。
Data 360による統合、定着支援、KPI設計とPoCの運営、効果測定と展開までを、Salesforceの三層アーキテクチャを踏まえたロードマップとして提供します。SalesforceのAI活用に課題や興味をお持ちの方は、まず無料相談でお話をお聞かせください。
・Salesforceの人工知能(AI)|Einstein・Agentforce製品ページ:https://www.salesforce.com/jp/artificial-intelligence/
・Agentforce Assistantとは?(旧称Einstein Copilot):https://www.salesforce.com/jp/agentforce/einstein-copilot/
・Einstein Copilot for SalesforceのAgentforceへの改称(Salesforceヘルプ リリースノート):https://help.salesforce.com/s/articleView?id=release-notes.rn_copilot_new_name_agentforce_default.htm&language=ja&release=252&type=5
・Einstein Trust Layer(Salesforceヘルプ):https://help.salesforce.com/s/articleView?id=sf.generative_ai_trust_layer.htm&language=ja&type=5
・Agentforce:AIエージェントプラットフォーム:https://www.salesforce.com/jp/agentforce/
・Data 360(旧Data Cloud):https://www.salesforce.com/jp/data/
・Salesforceの価格(全製品・エディション):https://www.salesforce.com/jp/pricing/
・Agentforceの価格:https://www.salesforce.com/jp/agentforce/pricing/
・Salesforce認定Agentforceスペシャリスト(Trailhead):https://trailhead.salesforce.com/ja/credentials/agentforcespecialist
最終更新日:2026年10月27日(公開日:2025年12月16日)
この記事の著者

甲斐 博一
ユニファイド・サービス株式会社 CMO
グローバルIT企業における23年間のマーケティング経験に経営企画のスキルも加えB2B/B2Cともに経営とマーケティングを結び付けていくことをモットーとする。また、数多くのデジタルマーケティングおよびECの立ち上げや衰退ビジネスの立て直しも経験し、Webサイトを事業に貢献させてきた経歴を持つ。現在はユニファイド・サービスにて、B2B領域のビジネスにフォーカスし、CMOとしてマーケティングを推進すると同時に、新規事業計画と成長を支援する活動を並行して実践中。経営とマーケティング、事業企画、そしてリーダーシップを次世代に伝えていくための活動もライフワークとして行っている。