導入サービス:
AI Ready Web/Encourage Japan

複数ブランドの店舗情報を
効率的に管理する
仕組みの構築
世界中の人々に感動体験を届けることを核に据え、株式会社トリドールホールディングスは、丸亀製麺をはじめとする多様なブランドを展開し、グローバルフードカンパニーを目指して挑戦を続けている。同社の事業は、店舗で働く人々とそこで生まれる体験により価値が生まれている。その現場を裏側から支えるのがWeb運用体制だ。なかでも、Encourage Japanを取り入れた構造化データ管理と、複数のヘッドレスCMSを統合した柔軟なコンテンツ展開は、同社の情報発信を支える重要な仕組みのひとつとなっている。データマネジメント戦略からCMSの活用、そして将来に向けたAI活用・セキュリティ戦略まで、進化し続ける情報基盤の裏側について、CIO兼CTOの磯村氏に伺った。
執行役員 CIO兼CTO
磯村 康典様
「食の感動で、この星を満たせ。」――トリドールホールディングスが掲げるミッションには、世界中の人々に「食」を通じた感動=KANDOを届けるという強い意志が込められている。グローバルフードカンパニーをビジョンに掲げる同社は、海外においても“KANDO”という言葉をあえて日本語のままで展開し、その価値観を伝えながら、グローバルでそのビジネスを急拡大させている。
丸亀製麺では、創業以来「手づくり・できたて」にこだわり続けてきた。一般的なチェーン店が店舗業務の省力化を追求して多店舗展開を図る中、同社はあえてその逆を行く。全店舗に「麺職人」の称号を持つ従業員を配置し、粉からうどんを打つという手間を惜しまない。この一見非効率なスタイルを貫くことで、他社には真似できない競争優位を築き、KANDOを届けながら多くのファンを増やしている。
CIO兼CTOである磯村氏は、「人の力が生み出す感動体験こそがトリドールの本質」だと語る。だからこそ、接客分野にはむやみにデジタルを導入しない。一方で、キャッシュレス決済やアプリなど、お客様が日常的に接する便利なデジタルサービスは取り入れる。DXの役割は、非接客分野を徹底的に効率化し、そこで生み出した時間をお客様と向き合うことや従業員の教育に充てること。「心を揺さぶる感動は、人でなければ届けられません。それがトリドールらしさであり、絶対になくしてはならない領域です。」この考えが、同社の情報戦略の根底を支えている。
Encourage Japan(以下、EJ)の導入は、当初マーケティング部門によるMEO(Map Engine Optimization)への取り組みが発端だった。集客の一環として、Googleマップなどの地図サービスや検索結果に正確な店舗情報を表示させるためにEJ Listingsが使われていたが、磯村氏はEJの構造に着目。「これは単なる情報配信ツールではなく、ナレッジベース(構造化された情報の集約データベース)として活用できると気づきました。店舗情報に誤りがあれば即座にクレームにつながりますから、EJは常に最新情報を保持する店舗マスターとして活用しようと判断しました。社内で使用する店舗関連の情報はすべてEJに集約し、一元管理する方向で整備していきました。」
磯村氏は、EJを店舗関連情報の基盤として位置づけ、社内の他システムもEJのデータを参照する形へと移行。丸亀製麺から始まった導入は、他業態、海外店舗へと拡大していった。
さらに同社はEJ Pagesも活用し、ブランド横断で共通化された店舗ページの制作を実現。コーポレートサイトでは全店舗情報を統合して活用し、同じ構造化データを用いて丸亀製麺やKona’s Coffeeなど各ブランドサイトでも展開可能な仕組みを構築している。ブランドごとにデザインを差し替えることで、データは共通化しつつ、ブランドごとに柔軟な表現にも対応している点が特徴だ。なお、コーポレートサイト上の店舗数表示もこの構造化データをもとに、EJから日々情報が提供され、店舗数も自動表示されている。
同社のWeb構築と運用は、「データマネジメントプラットフォーム」を軸に構成されている。DX戦略の一環として、従来のデータウェアハウスを廃止し、よりシンプルなデータレイクへとシフトした。「データレイクはクラウドストレージ上に構築されており、基本的にRawデータを加工せずに保存することを原則としています」と磯村氏は話す。
店舗情報、メニューや食材、レシピなど、多方面から発生するマスターデータはすべてクラウド上のデータレイクに保存されている。各システムから取得した未加工なRawデータは、フォーマット変換やデータ整形を施した一次加工データ、集計やマージを施した二次加工データと共に保管され、各システムはそれらのデータに対してAPIを通じてアクセスする。これらのデータ加工やデータ連携は、iPaaS(Integration Platform as a Service:システム間をつなぐクラウド型の連携基盤)を介して自動化されており、人が直接データに触れることはないため、データの改ざんや再加工を防ぎ、信頼性の高い活用基盤が構築されている。
このように、磯村氏がDXに着手して1~2年のうちにデータレイクとiPaaSを軸としたデータマネジメント基盤が整備され、現在も新たな業務に応じて連携を拡大している。
ヘッドレスCMSは、コンテンツの管理(バックエンド)と表示(フロントエンド)を分離するCMSの仕組みだ。従来のCMSが「編集=表示」という一体型であるのに対し、ヘッドレスCMSはデータ部と表示部を分離し、データマネジメントを強固にしながら表現の自由度を確保できる。Webサイトやアプリなど複数のチャネルで柔軟に活用しやすくなると共にデータの安全性と最新性をより担保しやすくなる。
磯村氏は、複数ブランドのWebサイトを展開する同社にとって、ヘッドレスCMSは表示の自由度と運用スピードの両立に適した選択肢だと判断。実際、社内の運用担当者がノーコードで柔軟に更新できる環境が実現されており、フロントエンドの設計を自由に行うことで、ブランドごとの世界観を崩さずに、統一された情報提供が可能となっている。さらに、各チャネルにおけるユーザー体験の最適化にもつながった。
加えて、スケジュール機能の活用により、深夜のキャンペーン開始なども自動で反映できるようになった。多言語展開では、CMSと連携してWOVN.ioを活用し、ブランドイメージと表現の一貫性を保ちながらWebサイトにおけるグローバル展開を支えている。
同社が活用するヘッドレスCMSは大別すると2種類だ。EJは主に構造化された店舗情報を統合して保有し、丸亀製麺やKona’s Coffeeなど複数ブランドでデザインを切り替えて活用している。一方、microCMSには、麺職人の情報や、メニューを構成する食材などの詳細なデータが保持されており、Web上では複数のヘッドレスCMSを柔軟に組み合わせて表示する。これらを統合して活用することで、情報の一貫性と運用の柔軟性を両立させ、魅力的なコンテンツ設計が可能となっている。
この統合的なWeb運用体制の成果が表れているのが、丸亀製麺の公式サイト(https://jp.marugame.com)である。ブランドの世界観と人のあたたかみを感じさせるデザインに加え、デザインとは分離し、統合されたデータマネジメント、スピーディな情報更新、検索性の高い構成は、同社の高度な情報戦略が具現化された好例と言える。
また、静的Webホスティングを前提とした構成を採用し、高いアクセス負荷にも耐えられるよう、CDN(Contents Delivery Network)とWAF(Web Application Firewall)を組み合わせてWebサイト全体を保護・最適化。これにより、アクセス集中時にも安定したパフォーマンスと高いセキュリティを両立している。
このようにトリドールでは、統合化されたヘッドレスCMSとデータマネジメント、ノーコードでの運用、表現の自由度をバランスよく設計することで、企業の情報発信力を最大化する仕組みを実現。情報システムがしっかりと支えることで、現場のクリエイティビティとスピードが発揮され、企業ビジョンであるKANDOをお客様に届けることで事業成長の原動力となっている。
データと表示を分離することで、
柔軟な多ブランド展開と高速配信、
及び高度なセキュリティを実現
今後のデジタル活用基盤について、磯村氏は「ビジネスプランの実行とテクノロジーは切り分けて考えるべき」と話す。ビジネスプランを実行することにおいては、経営戦略の実現に寄り添う一方で、変化の激しい技術はタイミングに応じて取り替え可能な状態にしておくことが重要だ。だからこそSaaSを基軸に「価値創造に直結しない独自システムは作らない」方針を徹底する。すべての業務システムをSaaSに移行し、データマネジメントを独立、レガシー環境を廃止することで、自社開発や運用にかかるリソースをより本質的な価値創出に集中できる体制を整えている。
同社のデジタル活用基盤は、「データマネジメント」「情報セキュリティ」そして「AI」の3本柱だ。以前から活用していたAIは、需要予測や、国内4万人の従業員の顔認証による勤怠管理分野にも展開されている。生成AIでは、社内ナレッジの抽出と活用に向けた検討が進められている。
セキュリティ面では、ゼロトラストモデルを徹底し、シングルサインオン(Entra ID)を基盤に、モバイル端末管理やEDR、セキュアWebゲートウェイなど、多層的な対策を実施。Intune経由のソフトウェア配布により、端末管理も一元化。加えて、脆弱性診断やダークウェブ監視による外部リスク対策も進めている。
磯村氏は、「情報を届ける”Web”というスタイルは時代と共に変わっていくかもしれません。しかし、お客様とつながり続けるという本質は、これからも変わりません」と語る。変化を前向きに受け入れながら、自社のビジョンと深いレベルで連携し、本質を見失わず、常に価値ある情報を管理し、届け続ける。そのための柔軟な基盤構築が同社の根幹を支えている。
事例紹介をA4、2ページにまとめました。
社内閲覧用にご活用ください。