この結果は何を意味するのでしょうか?多くの記事から読み解けるのは、AIが「仲介者」として、ユーザーと情報の間に立つようになったため、ゼロクリックが増えたという仮説が成り立ちます。
これまでユーザーは、検索結果に表示されたリンクの中から自分で情報を選び、サイトを訪問し、必要な情報を探し出していました。しかし今や、GoogleのAI Overviews(AIによる概要)やGemini、ChatGPT、Claudeといった生成AIが、複数の情報源を参照し、要約し、「答え」として提示してくれます。ユーザーにとっては、手間が省けてありがたいことです。
企業のWebサイトは、ユーザーに「直接訪問される場所」から「AIに参照される情報源」へと、その位置づけが変わりつつあるという仮説もまた成り立ちます。
この変化を受けて、「これからはAIに選ばれることが重要だ」「GEO(生成エンジン最適化)に取り組むべきだ」という議論が活発になっています。上記の仮説から確かにそれは間違いではありません。
しかし、ここで一度立ち止まって考えたいと思います。
断片的な情報に踊らされてはいないでしょうか。

本当に価値あるトラフィックは失われていない
株式会社PLAN-BがBrand Summit Autumn 2025で発表したデータは、さらに示唆に富んでいます。サンプル数は少ないものの同社が流入減少サイト57件を検証した結果、AI Overviewsが原因でCV(コンバージョン)が減ったのは、わずか5件、8.8%に過ぎませんでした。
変化したのは「市場規模(CV総数)」ではなく「ユーザーの検索行動」であり、それに伴って「初回接触のタイミング」が変わっただけ。AI Overviewsによって減ったのは、「情報を見ただけで満足する、もともと買うつもりのない人」だった可能性が高いのです。
これらのデータを総合すると、見えてくる景色が変わってきます。
ゼロクリック時代においても、本当に価値あるトラフィックは失われていない。むしろ、質の高い見込み客が「選んで」訪れる時代になりつつある。
では、「選ばれる」ためには何が必要なのでしょうか。
ゼロクリック時代において、企業のWebサイトには2つの役割が同時に求められます。
1つ目は、AIに参照される情報基盤としての顔です。
構造化され、正確で、機械が理解しやすい形で整備されたデータ。これがなければ、AIの目に留まることすらありません。つまりAIに対するブランディングと言い変えることもできます。
2つ目は、人の頭と心を動かす場所としての顔です。
共感を生み、信頼を築き、「この会社と取引したい」「この商品が欲しい」という心を動かし、行動を促すコンテンツ。これがなければ、たとえAIに引用されても、その先の成果には繋がりません。もちろん、これは人と人のフィジカル接点でも必要な要素です。
この2軸を両立できる企業だけが、ゼロクリック時代に勝ち残ります。どちらか一方では不十分なのです。
ここで、過去を振り返っておきたいと思います。
SEOが全盛だった時代、多くの企業が「検索エンジンに最適化する」ことに注力しました。キーワードを詰め込み、被リンクを集め、アルゴリズムの変化に一喜一憂しました。これは今でも続いているかもしれません。その結果、何が起きたでしょうか。人間が読んでもあまり価値のない、検索エンジンのためだけに作られたコンテンツが溢れました。
同じ過ちを繰り返してはなりません。
「AIに最適化する」ことは手段であって、目的ではありません。目的はあくまで、人の行動を変え、ビジネスの成果に繋げることです。その本質を見失えば、AIには引用されるが人には響かない、価値の低いコンテンツを量産することになります。
では、人の心を動かすコンテンツとは何でしょうか。その答えは、マーケティングの本質に立ち返ることで見えてきます。

AI向け情報基盤と人の心を動かすコンテンツの両立
ここで、ゼロクリック時代の「2軸」に話を戻しましょう。
1つ目の軸である「AIに参照される情報基盤」を作るためには、自社の情報を構造化し、機械が理解しやすい形で整備する必要があります。Schema.orgに基づく構造化マークアップ、FAQ形式での情報整理、明確な階層構造を持ったサイト設計。これらは、AIが情報を正確に理解し、引用するための土台となります。
しかし、それだけでは不十分です。AIに「参照される」だけでなく、AIを通じて「人の心を動かす」必要があります。そのためには、N=1から得られた顧客理解や組織理解を、コンテンツに昇華させなければなりません。
日本企業のマーケティング部門は、多くの場合「広告宣伝」「販促」の延長として位置づけられてきました。このことは、本コラムのEpisode 2(https://unisrv.jp/knowledge/column_web_002.php)でも指摘した通りです。
顧客理解を深めることには熱心でも、それを「データ化」する発想、スキル、ツールを持っていないケースが多いのです。まずは提供する情報を構造化しようという発想、また非構造化データもそれがPowerPointの資料や音声データの生データとして眠っているだけで、データとして活用される状態にもっていけていません。
ここまで述べてきたように、データマネジメントは単なるIT投資ではありません。マーケティング施策の一つでもありません。ゼロクリック時代の「2軸」―AIに参照される情報基盤と、人の心を動かすコンテンツ―を両立させるための、事業の基盤づくりです。
UIや情報提供形態だけを改善するサイトリニューアルでは解決しません。見た目を変えても、データの構造が変わらなければAIには参照されません。デザインを刷新しても、顧客理解に基づいていなければ人の心は動きません。必要なのは「サイトリニューアル」と共に着手する「情報基盤の再構築」です。
だからこそ、データマネジメントは経営課題なのです。
融合を実現するために、日本企業が越えるべき壁は3つあると筆者は考えます。
第一に、認識の壁です。
データマネジメントが経営課題であるという認識が、経営層に共有されていません。「Webサイトは広報やマーケの仕事」「データベースはITの仕事」という従来の枠組みで捉えている限り、融合は進みません。
第二に、組織の壁です。
マーケティングとITをつなぐ役割、部門、予算がありません。どちらの部門に属するのかが曖昧なテーマは、誰も手を出しません。部門をまたがる仕事への評価、融合に向けたモティベーションづくりが必要です。
第三に、スキルの壁です。
顧客理解とデータ設計の両方がわかる人材がいません。マーケターはSQLを書けない。エンジニアはペルソナを描けない。両方の言語を操れる人材を育成するか、同じ組織として運用するか、外部から獲得する必要があります。
これらの壁を越えるために、経営層の関与は不可欠です。
マーケティング部門に「やってくれ」と言っても、データの専門性がありません。IT部門に「やってくれ」と言っても、顧客の視点がありません。どちらか一方に任せても、うまくいきません。両者を束ね、共通のゴールを設定し、予算と権限を与え、壁を越えさせる。これができるのは経営層だけです。

マーケティングとITの融合による解決
本コラムシリーズ「AI Ready Web」は、Episode 1(https://unisrv.jp/knowledge/column_web_001.php)から一貫して「情報の構造化」の重要性を訴えてきました。Episode 2(https://unisrv.jp/knowledge/column_web_002.php)では「マーケティング部門とWebサイトの関わり方」を問い、Episode 5(https://unisrv.jp/knowledge/column_web_005.php)では「構造化に成功している企業はわずか2.5%」という現実を示しました。
ゼロクリック時代の到来は、これら主張の正しさを証明されたと自負しています。AIに参照される情報基盤を持ち、同時に人の心を動かすコンテンツを発信できる企業だけが、この変化を乗り越えられます。
その土台となるのが、N=1から始まる顧客理解と、それをデータに落とし込むデータマネジメントであり、それを実現するためのマーケティングとITの融合です。
【Unisrv AI Ready Web に関する資料はこちら】
最後に、読者の皆さんに2つの問いを投げかけたいと思います。
問い①:自社のWebサイトは、AIに参照される情報基盤になっているか?
情報は構造化されているでしょうか。機械が理解できる形で整備されているでしょうか。検索エンジンやAIから見て、信頼できる情報源として認識されているでしょうか。
問い②:自社のコンテンツは、N=1の顧客理解に基づき、人の心を動かせているか?
架空のペルソナではなく、実在する顧客を深く理解していますか。顧客自身が気づいていない課題に応えていますか。「この会社と取引したい」という行動を生み出せていますか。
この2つの問いに「Yes」と言えないなら、今すぐ動き出すべきです。
大きな変革は、小さな一歩から始まります。
まず、「N=1」の実践はすべての始まりであり、不可欠です。最近取引が始まったお客様、あるいは長年のお客様、一人を選び、徹底的に観察する。なぜ自社を選んだのか。どんな情報を探していたのか。何が決め手になったのか。具体的にどんな期待値があったのか。そしてどのように稟議を回したのか。できれば直接話を聞き、その言葉の奥にある「言語化されていないニーズ」を洞察することです。
次に、その洞察を「言葉」にする。ノートに書き出す。社内で共有する。できればデジタルで記録し、検索可能な状態にする。
そして、この作業を、マーケティングとITが一緒にやること。 別々にやっては価値が半減します。同じテーブルに着き、同じお客様の声を聞き、議論する。そこから融合が始まります。
ゼロクリック時代は、脅威であると同時に、チャンスでもあります。断片的な情報に踊らされず、本質を見据え、一歩を踏み出す企業が、次の時代を切り拓いていくと信じています。
・SparkToro「2024 Zero-Click Search Study」https://sparktoro.com/blog/2024-zero-click-search-study/
・株式会社ヴァリューズ×note共同調査「ゼロクリック時代の新GEO・AI SEO」(2025年10月)https://www.valuesccg.com/news/20251030-10235/
・Google公式ブログ「検索におけるAI:クエリ数が増加しクリックの質が向上」(2025年8月)https://blog.google/intl/ja-jp/products/ai/
・株式会社ゴンドラ「AI Overviewsによる影響と対応に関するアンケート調査」(2025年10月)https://www.gon-dola.com/lift/seo/9571/
・株式会社PLAN-B「Brand Summit Autumn 2025 登壇レポート」(2025年9月)https://www.plan-b.co.jp/blog/seo/83085/
2026年2月10日
この記事を書いた人

甲斐 博一
ユニファイド・サービス株式会社 CMO
グローバルIT企業における23年間のマーケティング経験に経営企画のスキルも加えB2B/B2Cともに経営とマーケティングを結び付けていくことをモットーとする。また、数多くのデジタルマーケティングおよびECの立ち上げや衰退ビジネスの立て直しも経験し、Webサイトを事業に貢献させてきた経歴を持つ。現在はユニファイド・サービスにて、B2B領域のビジネスにフォーカスし、CMOとしてマーケティングを推進すると同時に、新規事業計画と成長を支援する活動を並行して実践中。経営とマーケティング、事業企画、そしてリーダーシップを次世代に伝えていくための活動もライフワークとして行っている。